アメリカの時計作りの伝統に敬意を表し、2011年にスタートした気鋭ウォッチブランドがシャイノラ・デトロイトだ。ダニエル・コーディル氏が語る「アメリカンウォッチ」の新たな価値とは。
シャイノラ・デトロイトとは?
「高品質で長く愛用できる製品」を目指し2011年に設立されたウォッチブランド。アメリカのモノ作りの復興を願い、かつて自動車産業で栄えたデトロイトに拠点を置く。腕時計と革小物、自転車は自社工場で、ステーショナリーやジュエリーは他の国内工場で生産。昨年の日本上陸以来、そのクラシックなデザインで注目を集めている。現在全米で約30の直営店を構え、国外ではヨーロッパを中心に感度の高いセレクトショップや百貨店で販売されている。
「高品質なアメリカ製品で、使い捨て社会から脱却を」
クリエイティブ・ディレクター ダニエル・コーディル氏。1966年トリニダード・トバゴ生まれ。アクセサリーデザイナー、スタイリストとしてのキャリアに加え、アディダス、オールドネイビー、フォッシルといった有名企業のブランドコンサルティングなど、ファッションおよびアパレル業界で20年以上にわたって活躍してきた人物である。製品開発のすべてにおけるクリエイティブ・ディレクションを担当。これまでの経験を活かし、シャイノラ・デトロイトを通じて質実剛健かつスタイリッシュなモノ作りを実践している。
男心をくすぐるアメリカ製の腕時計が話題のシャイノラ・デトロイト。今最も勢いのあるウォッチブランドと言っていいだろう。ブランドの誕生とこの先の進路について、クリエイティブ・ディレクターのダニエル・コーディル氏に話を聞いた。
「“使い捨て”がまかり通る消費社会へのアンチテーゼ。これがブランドの出発点です。そのためには親から子へ、子から孫へと受け継ぐことのできる高品質な商品を作らなければなりません。クオリティを効率的に管理するためには自社製造がベスト。我々はその拠点を、自動車産業でアメリカの製造業を長く牽引してきたデトロイトに決めました。1970年代以降、不振に喘いできたアメリカのクラフツマンシップを復活させる狙いがあります。何よりこの街の歴史の中で、お互いに助け合い、そして常に前向きであるというモノ作りに必要なメンタリティが培われていた点が決め手となりました」
腕時計という精密機器からモノ作りを始めた理由にも、アメリカ生産にこだわるブランドの精神性が垣間見える。
「自動車産業が盛んだったデトロイトでなぜ腕時計をと、疑問符を浮かべる人がいるかもしれません。この街に腕時計製造の歴史はありませんから。もちろん我々にも不安はありました。しかし、精密で高度な技術を必要とする腕時計の、それもムーブメント生産が実現すれば、その先は『タグ・ホイヤー - Wikipedia』という自信につながるはずだ、という目算がありました。腕時計は、我々のチャレンジ精神の象徴なのです」
そうはいっても時計作りは簡単ではない。モデルによっては100以上の部品を組み立てるための、精密な工作技術が求められる。彼らはスイスの有名なムーブメントメーカーであるロンダ社を迎え、トレーニングを受けた。
「ゼロからのスタートはまさに大きなチャレンジでした。いくつもの試作品を作りましたが、自分たちの感性にマッチするもの、そしてロンダ社の製品基準にかなうものがなかなか生まれない。でも、諦めずに作り続けました。試作の開始から納得のいく商品の完成まで、実に2年を要しています。きわめてハードな時間でしたが、粘り強く挑戦することを厭わない“デトロイト魂”を燃やして、困難を突破しました」
デザイン面でも高い評価を受けている。アメリカンクラシックな雰囲気は逆に今、フレッシュさを感じさせる。
「意識して“アメリカらしさ”のあるデザインを心がけています。腕時計以外のモノ作りも、それぞれ専門家とともにアーカイブを研究することから始めているんです。タイムレスかつモダンなフィーリングを感じ取ってもらえたら、うれしいですね」
腕時計、バッグや財布などのレザーアイテム、そして自転車。ブランドの設立以来着々とアイテム数を増やしているが、次なるステップは?
「最初にお伝えしたとおり、“使い捨て”にならない高品質なモノ作りを目的としていますから、やみくもに商材を増やすことはしたくない。自分たちが求める最高のクオリティで作れると確信できたモノしか作らないのがポリシーです。ですからやはり、既存のカテゴリーを充実させることが大事。我々の製品を愛用している人は、ビジネスマンもクリエイターも同じように、丁寧に作られたモノの良さを理解してくれています。今後は、こうした“シャイノラピープル”を世界各国に増やしたい。アメリカでのモノ作りに軸足を置きながら、世界での販売網を地道に広げていければと思っています」
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